MEMEX NOTE

素敵なことを少しずつ

作家たちの友情

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先日、図書館で一冊の本を借りました。

スタジオジブリのアニメ映画『ゲド戦記』の原作本の著者、アーシェラ・K・ル=グウィンをご存知でしょうか。

彼女が生きていた中で最後のエッセイ集となった『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』という本です。

 

彼女は生前にブログを運営していたのですが、その中にあった読み応えのある文章をまとめたのが、こちらの本です。

本の内容としては、彼女自身が年を取ったことに対する考えや、いま飼っている猫との出会いや暮らしについて、そして彼女の本領を発揮する文学にまつわる考察などが含まれています。

どのトピックに焦点を当てても、さすがストーリーテリングの名手といった感じで、彼女の考えや体験をとても上手に我々に伝えてくれます。

 

彼女自身、SFやファンタジー分野の作品を多く執筆しているので、そのような文章を書く際には、頭の中に思い浮かんだことをを書くだけで良いので、すぐに書けるそうです。

しかし一方で、エッセイのようなノンフィクションを語る場合には、事実をきちんと伝えないといけないという義務感から、少し筆のスピードが落ちるようなことを言っていました。

 

この本の中に書かれていることは、面白いだけでなく、とても文化的と言いましょうか。

特に文学にまつわるトピックでは、ある格言についての考察や、ホメロス指輪物語について、『怒りの葡萄』についてなど、言葉を紡いで物語を作ることへの姿勢に触れることができ、こういうことが「教養が深い」と言うのだろうと実感しました。

 

文学だけでく、文学界にまつわるトピックに関しては、なかなか知ることのできない内容もあって、スタニスワフ・レムアメリカSF作家協会の名誉会員の資格を剥奪されるときの話や、文学賞をもらうことの良し悪しなどは大変興味深かったです。

 

そして今回、私が一番伝えたかったことは、この本の内容の中でも最も始めの言葉に、とても個人的な驚くべき体験をしました。

こう書かれていました。

 

ヴォンダ・N・マッキンタイアへ、愛をこめて

 

ヴォンダ・N・マッキンタイア。私はどこかで聞いたことがある名前でした。

そう。ヴォンダ・N・マッキンタイアとは、フランスを舞台にしたファンタジー小説『太陽の王と月の妖獣』の作者です。

『太陽の王と月の妖獣』はアメリカのネビュラ賞を受賞した作品で、おそらくル=グウィンとは女流作家同士の交流があったのでしょう。

 

私は高校生のとき、この小説を読んでいたので、著者の名前を覚えていたのでした。

ただ残念なことに、当時の私は本を読む力が足りず、上下巻を全部読むことはできませんでした。

 

それでも長い年月が経った今になって、たまたまル=グウィンのエッセイ本を手にしたときに、こうやって昔読んだ作家の名前に気づき、作家同士のつながりに感動することなったのです。

 

本というものは全部読みきらないと、なかなか「その本を読んだ」と公明正大に言えませんし、読めなかったことに対して、後悔と罪悪感が残るものですよね。

 

でも、たとえ全部読みきれなかったとしても、読めた分だけ得られたことがあって、今回のようにその作者と私のあいだに小さな関わりを持てたことにとても良かったと感じました。

 

これからもすべて読めるかどうか分からなくても、興味のある本を読んでいこうと心に決めました。